みらい(新人医療事務)
あおいさん、レセプトの資料を整理していたら「遠隔地加算」という見慣れない加算を見つけました。500点と書いてあるんですが、これはどんな加算なんですか?
あおい(元・医療事務)
それは少し特別な加算ですね。同じ「遠隔地加算」でも文脈がいくつかあるのですが、この500点・180日を限度とするものは、令和8年度(2026年度)の医療観察診療報酬にある加算です。まず前提として、これは私たちが普段扱う健康保険の診療報酬点数表とは「別建て」の報酬なんですよ。
みらい(新人医療事務)
別建て、ですか?普通の点数表には載っていないということですか?
あおい(元・医療事務)
そうなんです。心神喪失者等医療観察法(平成15年法律第110号)に基づく「医療観察医療」という仕組みがあって、その医療に対する報酬が医療観察診療報酬です。ここでいう遠隔地加算は、その中の「入院対象者入院医学管理料」という入院料の「注7」に位置づけられた加算になります。
みらい(新人医療事務)
なるほど。じゃあ、どこの病院でも算定するものではないんですね。
あおい(元・医療事務)
まさにそこが最初の確認ポイントです。算定するのは指定入院医療機関に限られます。医療観察法の決定で入院している「入院対象者」を受け入れる、国公立などの限られた専門病院ですね。ですので、一般の医療機関では対象外の可能性が高い加算です。
この加算は何のための加算か
みらい(新人医療事務)
そもそも、なぜ「遠隔地」で加算がつくんですか?
あおい(元・医療事務)
医療観察医療の入院は、治療段階を「急性期」「回復期」「社会復帰期」の3期に分けて評価しながら、概ね18か月以内の早期退院を目指す仕組みになっています。退院に向けては、退院後に帰る場所(帰住先)での生活環境の調整が欠かせません。ところが帰住先が入院先から遠く離れていると、その調整が難しくなりがちです。そこで、遠隔地への退院に向けた計画的な治療を後押しする趣旨で設けられているのが、この遠隔地加算だと整理できます。
みらい(新人医療事務)
遠くの地元に帰る準備を、しっかり進めてもらうための加算なんですね。
あおい(元・医療事務)
そういう理解でよいと思います。ただし「遠隔地だから自動的につく」わけではなく、後で見るように距離の要件と、計画書の作成という手続きの要件がそろって初めて算定候補になります。

対象になる医療機関・患者
みらい(新人医療事務)
対象を、もう少し具体的に教えてください。
あおい(元・医療事務)
算定の主体となる医療機関は、医療観察法の指定入院医療機関です。対象となる患者は、法第42条第1項第1号または第61条第1項第1号の決定により入院している「入院対象者」で、そのうち「退院後の帰住先が遠隔地にある者」が対象になります。
みらい(新人医療事務)
「遠隔地」って、どのくらい遠ければいいんでしょう?感覚だと曖昧ですよね。
あおい(元・医療事務)
そこは明確に決まっているんですよ。公式の算定通知では、「退院後の帰住先が遠隔地にある者」を次のように定義しています。
遠隔地の距離要件(令和8年度)
入院している指定入院医療機関と、入院対象者の帰住先を管轄する地方裁判所所在地との旅程が、最も合理的な通常の経路及び方法で、300km以上の旅程となる者。
みらい(新人医療事務)
帰住先そのものじゃなくて「帰住先を管轄する地方裁判所の所在地」までの旅程で見るんですね。ここは間違えそうです。
あおい(元・医療事務)
そうなんです。単純に患者さんの自宅までの直線距離ではなく、帰住先を管轄する地方裁判所の所在地までを、合理的な通常の経路で300km以上あるかどうかで判断します。ここは自己流で解釈せず、公式の定義どおりに確認してくださいね。
点数・算定単位
みらい(新人医療事務)
肝心の点数を確認させてください。500点でいいんですか?
あおい(元・医療事務)
はい。医科診療行為マスター(コード188009070「遠隔地加算」)で、点数は1日につき500点と登録されています。そして、算定の対象となる期間は180日を限度としています。
| 項目 | 内容(令和8年度) |
|---|---|
| 加算名 | 遠隔地加算(入院対象者入院医学管理料 注7) |
| 点数 | 1日につき500点 |
| 算定期間 | 180日を限度 |
| 算定主体 | 指定入院医療機関 |
| 制度 | 医療観察診療報酬(別建て) |
みらい(新人医療事務)
1日500点が最大180日分、という理解ですね。
あおい(元・医療事務)
期間の上限としては180日ですね。ただし後で触れますが、途中で医療の提供を中止する事情が生じた場合の扱いも定められているので、実際に何日分が算定対象になるかはケースによって変わります。断定はせず、「180日を限度とする算定候補」と押さえておくのがよいと思います。
算定するための要件
みらい(新人医療事務)
距離の条件を満たしたら、あとは自動的に加算されるんですか?
あおい(元・医療事務)
いいえ、手続きの要件があります。公式の算定通知では、遠隔地加算について次のように定めています。
遠隔地加算の算定要件(令和8年度)
指定入院医療機関が、退院に向けた計画的な治療を進めることができると判断した入院対象者につき、別紙様式1の「退院促進治療計画書」を毎月末に作成した場合に算定候補になるとされています。退院促進治療計画書は診療録に添付するものとされています。
みらい(新人医療事務)
「退院促進治療計画書」を毎月末に作るのが条件なんですね。
あおい(元・医療事務)
そうです。この計画書は診療録に添付します。様式1では、算定を開始した日から180日目の日を算定終了月として、外出訓練・外泊訓練・退院申立てについて今後180日間の計画を立てたうえで、各月ごとの計画と実施状況を毎月末に記載していく形になっています。
みらい(新人医療事務)
計画を立てて終わりではなく、毎月きちんと実施状況を残していくんですね。
あおい(元・医療事務)
その積み重ねが要件です。加えて、算定の開始や医療提供の中止は、治療評価会議で決定することとされています。社会復帰調整官が出席した場合、または社会復帰調整官が出席できない場合であらかじめその意見を聴いたときに限って決定する、という手続きです。

算定できない場合・中止の扱い
みらい(新人医療事務)
逆に、算定できないケースもあるんですか?
あおい(元・医療事務)
あります。公式の算定通知では、次の場合には算定できないとされています。
算定できないケース(令和8年度)
実際の治療状況が当初の計画と比べて著しく遅延していると認められる場合。および、帰住先に所在する都道府県の指定入院医療機関に転院できる場合。これらは算定できないものとされています。
みらい(新人医療事務)
遠くの地元に帰るための加算だから、地元の都道府県の指定入院医療機関に移れるなら、そちらを優先するということですね。
あおい(元・医療事務)
趣旨としてはそう読めますね。あくまで公式資料の文言に沿った理解にとどめてください。もう一つ、算定期間中に病状が急性増悪した場合や、社会復帰調整官による生活環境の調整を引き続き行う必要がある等の事情で、退院促進治療計画書に基づいた医療の提供を中止した場合には、「注7」後段の規定は適用しないとされています。
みらい(新人医療事務)
途中で状況が変わったら、そのまま180日続けるわけではないんですね。
あおい(元・医療事務)
はい。だからこそ、開始も中止も治療評価会議で判断するという建て付けになっているんです。
令和8年度改定での変更点(前回改定からの差分)
みらい(新人医療事務)
令和8年度(2026年度)の改定で、この遠隔地加算は何か変わったんですか?
あおい(元・医療事務)
ここは厚生労働省の一次情報で確認しておきましょう。令和8年度医療観察診療報酬改定では、入院料の体系そのものが大きく見直されています。
令和8年度改定での主な動き(医療観察の入院料)
令和8年度(2026年度)改定で、医療観察一般病棟入院料(1日につき3,900点)や医療観察地域移行支援病棟入院料(1日につき3,500点)などが新設され、入院料の体系が見直されました。一方で、遠隔地加算(注7)そのものの点数や要件の変更は、令和8年度改定の概要資料では確認されていません(確認日: 2026年8月・厚生労働省一次情報ベース)。
みらい(新人医療事務)
入院料の枠組みは動いたけれど、遠隔地加算自体の変更は概要では見当たらない、ということですね。
あおい(元・医療事務)
そのとおりです。ここは「変わっていないと断言する」のではなく、「令和8年度改定の概要資料の範囲では変更が確認されていない」という事実として押さえてください。最終的な点数・要件は、必ず自院で最新の公式資料に当たって確認することをおすすめします。
自院で確認する順番
みらい(新人医療事務)
実際に「うちは算定候補かな?」と確認するとき、どの順番で見ればいいですか?
あおい(元・医療事務)
次の順番で確認していくと整理しやすいですよ。
自院で確認する順番
- 自院が医療観察法の指定入院医療機関にあたるかを確認する
- 対象が、法の決定により入院している入院対象者かを確認する
- 帰住先を管轄する地方裁判所所在地までの旅程が300km以上の遠隔地かを確認する
- 退院に向けた計画的な治療を進められると判断できるかを確認する
- 別紙様式1の退院促進治療計画書を毎月末に作成し、診療録に添付しているかを確認する
- 治療評価会議で算定開始が決定されているかを確認する
みらい(新人医療事務)
最初の「指定入院医療機関かどうか」で、多くの医療機関はここで対象外になりそうですね。
あおい(元・医療事務)
現実にはそうなりますね。この加算は指定入院医療機関という限られた専門病院のための加算なので、一般の病院・診療所は入口の時点で対象外の可能性が高いです。そのうえで、指定入院医療機関であれば、距離要件と計画書・会議の手続きを満たすかどうかで算定候補になるか要確認かが分かれます。
よくある取り漏れ・注意点
みらい(新人医療事務)
この加算で、うっかりしやすいポイントはありますか?
あおい(元・医療事務)
いくつか挙げておきますね。
つまずきやすいポイント
距離は「帰住先そのもの」ではなく「帰住先を管轄する地方裁判所所在地」までの旅程で判断する点。退院促進治療計画書を「毎月末」に作成し診療録へ添付する運用が要件である点。算定の開始・中止は治療評価会議での決定が必要な点。地元の都道府県の指定入院医療機関に転院できる場合は算定できない点。
みらい(新人医療事務)
距離の見方と、毎月の計画書、会議での決定。ここを外すと差し戻しになりそうですね。
あおい(元・医療事務)
そうですね。特に計画書は「作って終わり」ではなく、毎月末に実施状況まで記載していく必要があります。書類と会議の記録がそろっているかを、月次で確認しておくと安心です。
自院が算定候補か確認したい方へ
みらい(新人医療事務)
うちが算定候補になるか、自分でも確認してみたいです!
あおい(元・医療事務)
自院が算定候補になるかは 加算チェッカー で確認できますよ。届出状況や体制を入力すると、確認すべきポイントが整理できます。
最終確認のお願い
最終的な算定可否は、自院の届出状況・公式資料・審査支払機関の判断でご確認ください。